川崎市まちの樹50選・指定番号30
多摩区登戸・登戸稲荷社の楠(クスノキ)
精巧な漆喰彫刻
古くからこの地の人々に「登戸稲荷社」として親しまれ、五穀豊穣や商売繁盛、家内安全の神様として厚い信仰を集めてきました。
長い年月を経た社殿を眺めていると、まず目を引くのが、外壁を彩る精巧な漆喰彫刻です。
漆喰を盛り上げ、鏝(こて)を使って立体的に仕上げる「鏝絵(こてえ)」と呼ばれる技法で、龍や狐などが描かれています。江戸時代の左官職人たちが、建物の壁を単なる外壁ではなく、一つの作品へと仕立て上げたものです。
拝殿にも見どころは多く、木鼻に巻き付く迫力ある龍や、扉に施された獅子の透かし彫りなど、細部にまで職人の技が凝縮されています。
側面には三国志の武将・高覧、脇障子には八岐大蛇退治の神話や猿の姿なども刻まれ、それぞれの彫刻が物語を持っています。
かつての社殿は茅葺きでしたが、昭和28年に瓦葺きへと改められました。時代とともに姿を変えながらも、江戸時代の職人たちが残した技は、今も社殿の随所に息づいています。
多摩川の洪水や風雨、そして関東大震災など幾度もの災害をくぐり抜けてきた登戸稲荷社。
そこに残されているのは、ただ古い建物だけではありません。
漆喰の壁に刻まれた龍や狐、木々の間に佇む社殿。その一つひとつから、信仰を守ってきた地域の人々と、それに応えようと腕を振るった職人たちの思いが伝わってきます。
登戸稲荷社は、登戸の歴史を伝える神社であると同時に、江戸の職人文化を今に伝える貴重な場所でもあります。








